=Calendula=
























「どうしたの。」









言われてはっと、目を覚ます。

目の前には、何を考えているのかサッパリ分からない彼の顔があって。
その彼の手が、自分の頬に触れているのも、自分の頬が僅かに濡れた筋を残しているのも、伝わってくる感触で理解した。










「どうしたの。」









と、再度彼は問う。

その手で、頬を伝う涙を拭いながら。


















「…わからない…。」





















何故、私は泣いているのだろう。

悲しい夢を見ていた気もするけれど。




浅い夢の淵に、ぼんやりと佇んだままの意識。




薄く目を開けたまま呆然としていると、彼の手がゆっくりと、今度は髪を梳き始めた。
まるで子供をあやすかの様なその手は、とても優しくて。


髪を梳かれる感触が心地いい。

夢の淵からこっちへおいでと手招きされている様で、私はそのまま目を伏せる。


すう、と軽く呼吸すると、それまで規則的に動いていた彼の手がぴたりと止まった。
それが妙に寂しくて、私は慌てて目を開ける。




開けた先には、少し驚いた表情の彼。




私が眠ったと思ったのだろう。急に目を開けた私を黙って見ている。












梳く手をやめないで。と。












態度で示してしまった様なものだ。

気まずくなって、ゆっくりと視線を外す。
こういう時、素直に寂しいと言えればいいのに、と思う。




言えばきっと、優しく抱きしめてくれるのに。
















「そっち。」

















黙ったままじっとしていると、彼が視界に入る所まで体をずらしてきた。






















「行ってもいい?」






















言うと再び、そっと私の頬に触れた。

一緒に眠るのを、拒んでいた訳では無かったのだけれど。
彼は、未だ心の不安定な私に配慮して、敢えて別々に眠ってくれていた。





(やさしい、ひと。)





微妙な距離をずっと、保ったまま。

寂しい時には、傍に居てくれて。
優しい言葉を掛けてくれて。






(…じゃあ。)







ふ…とある想像がよぎり、恐くなって自分の体をきつく抱き締める。
















(さみしく・なくなったら…?)
















どくんと心臓が大きく脈打つ。

一瞬後はもう、何が起こるか分からない、不安定な私の未来。

先の事を、考える程の勇気はなくて。




せめて精一杯の思いを込めて、頬に触れる彼の手を握りしめた。




にこりと、彼が笑ったのを空気で察する。

ゆっくりとこちらに来る彼の為に、私は少し体をずらした。




















「あったかいね。」






















小さく囁くと、彼も枕に頭を埋めた。




「さっきまで、私が温めてたんだもの。」


「あったかいよ。」





再度、同じ事を。

何も言わずに視線を交わすと、やっぱり優しく笑ってくる。











「…寒かったの?」













冗談のつもりで言った言葉も。



「うん。」



と、肯定してくれた。

















本当は、寂しそうな私の為に、傍に来てくれただけなのに。



































「…抱きしめてもいい?」



「いいよ。」







と。彼が、そう言い切る前に。











私は腕を回して、その体を強く、抱きしめていた。


体が一瞬、びくりと緊張したが、すぐに力が抜けると、彼はそっと抱きついて来た私の体に腕を回す。













「…痛いぐらい、ぎゅってして…。」














彼の胸に顔をうずめて、懇願する。

















「…そんなに強く?」



「もっと強く。」




















圧迫される体。




痛い・苦しい・息が出来ない。











でももっと強く。






































「…泣いてるの…?」












言いながら、ゆっくりと彼は私の顔を見た。















「…お願いだから…。」


















瞳の雫は止まらない。

夢を見ていた。



哀しい夢だった。










それはデジャヴ。

いつか来る日の夢。

















貴方が、何処かへ行ってしまう、夢。

























「抱きしめていて…。」







































今だけでいい、一瞬でもいい。

少しでも長く。



貴方を感じていられる様に。













この体に、貴方との想い出を刻むの。














そうして貴方と離ればなれになった後も。







目を閉じれば、貴方の優しい声が聞こえる様に。

笑った顔が、思い出せる様に。


















独りでも、生きて行ける様に。















凍てつく寂しさに、耐えられるだけの。
















































貴方の愛を、今は、下さい。
















end.
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◎Calenduia=キンセンカ
◎花言葉=別離の悲しみ・さびしさに耐える

花言葉シリーズ第一段ということで。バックの花は何の関係もないですよ。
デラシネで書けなかった、約一ヶ月間の二人の生活を「こんな感じだといいなぁ」とか思いながら書いてみました。
いちゃいちゃしてる訳じゃないんですけど。
この微妙な感じが、たまらなく好きなんですよねぇ。
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