【眠れない夜に】












小さくため息を一つ落とすと、それまで閉じていた目を開けた。








暗がりの中拡がる世界は、見覚えのあるホテルの一室。

眠れずに何度か寝返りをうってはみたものの、一向に睡魔がやってくる様子もなく、眠る事を諦めた。

















ここに来た時からずっと。












時間が、巻き戻ってしまった様な錯覚に、襲われている。






隣には竜也がいて。


ぐっすりと眠っている。






















時間が戻ってしまった様な錯覚に、襲われてはいるけれど。

















少し、大人びた顔つきになった竜也。


































戻ってなんかいない。


時間はずっと流れている。
















私も、進んでいる。



竜也と同じ様に。

























(でも、戻ってきてしまった…。)





















昨日まで当たり前だった、アパートでの生活。

ひとりで生きていくと、そう決めてここを出て行ったのに。









夢物語の様に、一瞬にして崩れた私の「これまで」。


























一体私は今まで。


ここを出ていってから何をしていたのだろうと。






自問しては、答えを得られずただ呆然としている。




















































(…あのひともいない…。)









ふと、そう思い、未練がましい自分に呆れた。


知っていたハズなのに。












いつかこんな日がやってくると。


もう二度と会えなくなる、そんな日がくることを。




















知らず、瞳から雫がこぼれている事に気付き、ゆっくりと体を起こした。


隣にいる竜也の寝顔を伺い、ぐっすり眠っている事に安心すると、そっとベッドから抜け出した。

















蛇口を捻ると、無機質に流れ出て来る水。



少し冷たいそれを手にすくうと、勢いよく顔に散らした。

水浸しの顔を上げると、目の前には鏡。





水滴とは違うものが、瞳から頬にかけて流れているのが分かって、もう一度水を掛ける。




















止まらない涙。




































何が哀しいのか分からない。


哀しい事が多すぎた。











自分の中にぽっかりと大きな空洞ができて、そこから空しく何かが出ていく様な、そんな感覚。


声を荒げて泣く事も、怒りで我を忘れるような事も、何も無い。












そんな力すら出てこない。
























ただ空しくて。




もう、生きていてもどうしようもないんじゃないかとか。


そういう事しか考えられなかった。



































「…ゔ…!」





急に吐き気がして、吐いた。













大して食事も取っていなかったので、逆流してくるのは殆どが胃液。


無機質に流れる水と一緒に、それも流れて消えた。



















口の中が気持ち悪い。


何でこんな事ばかり起こるの?













色々考えすぎたからだろうか。


まだ吐き気が残っている。





































「…はぁ。」


































空しかった。





怒りをぶつける気力もなくて。


ぐるぐると考えては襲って来る吐き気に。
































本当にからっぽになった気分だった。


































































ふ…と。











からっぽになった脳裏に。



ある予感が。よぎった。



























「…まさか。」






そんなハズはない。








そんな事、あるわけない。


















だからきっと気のせい。




私がそうだといいと、望んでいるだけ。



































「…でも…。」




































彼としていた事は。


そういう事だ。












もしも。



もし本当にそうなら。
































…涙が、零れた。


















無くしてなんかなかった。


ちゃんと、私がこれまで歩いてきた道は続いてる。



















今度は、声が出た。


嬉しくて、押さえられなかった。
















知ってた。




ちゃんと知ってた。















いつか、あの人と二度と会えなくなる日が来る事。


















あの人も知ってた。





















だから私に。























残していってくれたの?
























寂しがりやな私に。
























寂しい思いをしなくてもいいようにって。





























こんな日が来た時に。























それでも私が生きていけるようにって。
















































「…ごめんなさい…。」








































弱音を吐いてごめんなさい。

















こんなに愛して貰っていたのに。





気づけなくてごめんなさい。











































弱音を吐いてごめんなさい。































あの人がくれた、もう一つの命。






















貴方がいるなら、もう一度頑張れそうな気がするから。





















































そして神様もう一度だけ。


























私に立ち上がる力を下さい。


















































今度は私の為じゃなくて。



























生まれてくる新しい命の為に。














































私は失ってもいいから。













何もかも、無くしてしまっていいから。



























































この子だけは、どうか幸せに。




































ただ、それだけを。







end...
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

デラシネでは書けなかった脳内捏造話のひとつでした。
今回色んな捏造エピソードと一緒に、一つのお話として書けるくらいにまとまったので起こしてみました。
ひたすらにキヨが出ているだけなんですが、これでもかってくらいノウェキヨなお話です(笑)。
伯爵夫人に「デュナミスが使える様になったのも、お腹の子のせいよ。」と言われた時、さほど動じていなかったキヨをみて、
これはもしかして、妊娠している事を知っていたんじゃないかなーとか思ったりした訳なんですよ。
吐き気を催したのも、勿論つわりのせいです。
宿した命はキヨにとって、本当に愛すべきものだったんじゃないかなと、そんな事を思いながら書いたお話です。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
<TEXT>