【荒野の果てに】














「おい、聞いているのか。」






上の空だった目の前の相手に苛立ちを覚え、冷たくそう言い捨てる。
























「…考え事を、していた。」




ようやく視線を上げたかと思うと、ふ…、とため息まじりにそれだけ答えた。

一瞬沈黙がよぎるが、気にも止めない様子で頬杖を付く。















「何を考えていたんだ。」


「答える必要はない。」











悪びれもしないその態度に、いい加減腹立たしくなった。









「…そうだな。言い訳など、聞きたくもない。」























何を考えていたのか、なんて。



分かっている事だった。




















だからこそ余計に。




目の前の自分を見て欲しかった。






* * *






「くそっ。」






思わず呟いた小さな悪態を、めざとく聞いている者がいた。










「…怒ってんの?」


「起きてたのか。」





体は横たえたまま、視線だけをこちらに向ける。










「ノウェムと喧嘩した?」


「…喧嘩じゃない。」









苛立たしさを隠しながら答える自分に、セクスは小さく笑った。






「ふたりとも、ワガママだからなー…。」






言いながら、視線を天井へと向ける。


視線を外されたので、自分も視線を左へ振る。



















「我が侭なのはあいつの方だろう。」











先生から信頼され、困難な仕事をいくつもこなしていたのに。


なのに今は、先生じゃない誰かの事を考えている。









「オクトは、仕事に一生懸命なノウェムが好きなんだもんね。」









言葉少なにピンポイントで言い当てられる不快感に、思わず眉をひそめる。





「先生の娘となんか、会わせなければよかった。」














仕事とはいえ、異常なまでの執着があちこちで見受けられる。


いくら表面上は見繕っても、その変化は隠せない。












元来、彼は優しい性格だった。












この目で彼の本当の姿を見た事など、数える程しかない。



あれほど強大で、麗しい力を何故使おうとしないのか。













一度も問いただした事は無いが、きっとこう答えるだろう。



























—必要ないから—






















本当は…、違う答えを隠しているくせに。






















「センセイは、会わせたかったのかもよ。」




その言葉に視線を戻すと、セクスもこちらに視線を向けていた。



「…何故。」


「ソコを俺に聞かれてもなー…。」












笑いながら体を起こすと、伸びをしながら答えた。

ぱたりと腕を下ろすと、体を横たえていたソファに深々と背中を預ける。








「難しいコト分かんないけど、なんか好きだよ。」







怪訝な表情の自分に、怯えもしない。

飄々としているというか、何を考えているのか分からないというか…。






彼独特の間に、だんだん毒気を抜かれている気がする。






「…何が。」



「必死になってるノウェム。」




















確かに…、今までとは違う何かを、彼の中に感じる。


だけど、それが余計に。

















「今までは、必死じゃなかったって事か。」






無性に、腹立たしかった。





















「俺は、欲しいと思うよ。」







言いながら、片手を天に掲げる。

























「自分の存在価値以上の、何か。」



























ぎゅっと握りしめたその拳は、力強いものがあった。


























愛されて、生まれてきた訳じゃない。


ただ、人間の欲によって生み出された生命体。






それが自分達だ。

























生きていれば必ず、その存在意義について疑問に思う時がある。

ただその世界に生きているだけ。




そんな価値では、立ち上がる事さえ出来なかった。


























だから必死になった。

この宇宙を浄化する為に。

正しい世界を作る為に。











そうする為に生まれて来たのだと。



先生が教えてくれたから。






























「我が侭だったのかもしれない…。」






今、自分達がしている事は、自分の存在意義を維持する為の行為だ。


自分の為に、何かを犠牲にしているに過ぎない。






だから、腹が立ったのだ。






戦う事以外に、存在理由を見つけられそうな彼に。



















何かを壊す事が好きな訳じゃない。


命を奪う事が好きな訳じゃない。


ただそこにしか、自分が存在している証が得られなかったから。



























そんな空しい大地に立っても、何も見えない事に、本当は気付いていたのに。



































「でも、ノウェムもワガママだよ。」





ニコリと笑うセクスに、ようやく自分も笑顔を見せる。














「我が侭だよな?」




「うん、ワガママ。」














自分以上の何かに出会えたのなら。



何もかもかなぐり捨てて行ってしまえばいいのに。



















先生を思う気持ちが、仲間を思う気持ちが。


彼を真綿の様に包んで離さない。









「いつか、なくしちゃっても知らないよーってね。」





































「何の話だ。」



突然割って入ってきた話題の人物は、不思議そうな顔をしている。











「仕事頑張りましょーって話だよ。真面目でしょ?」




「…?ああ…。」









いまいち話の全貌が見えていないものの、さして興味が無かったのか適当に相槌を打って話を切った。








「ウーノはもう大丈夫だそうだ。」


「そ。よかったね。」











ノウェムのその言葉の意味を理解してか、ソファから腰を上げるセクス。









「行くのか。」


「ああ。」









強い瞳で答える彼を見て、薄く笑う。



「…なんだ?」










笑われた本人は、訝し気に聞いてくる。
































「いや、うらやましい。」
















一言だけ告げると、足早にその場を去った。







本当は何も持っていない自分に気付かされた。


それが酷く羨ましくて、腹立たしくて。











自分は彼に嫉妬していた。














だからこそ余計に。


彼には手に入れて欲しかった。











































自分以上に、大切なものを…。








end.
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ノウェでもキヨでもないキャラがメインの小説は初になりますね!!!
前々からオクトとかセクスの登場するssを書きたいなぁと思っていたので、書けてよかったですv
ビミョーに、デラシネにリンクするようでしてないお話でした(笑)。
オクトとセクスのやりとりは書いてて楽しいので、またネタが降りてくれば書きたいです〜。
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