>>デラシネ.01









せめて彼に裁かれよう。


彼女の愛した彼に。





でも、この裁きは彼の為のものじゃない。







「やろうか」






…ただ、僕が救われる為だけの。






























【デラシネ】



「チェックメイト」


盤上に騎士を置いて、そう宣言したのはノウェム。
ゆっくりと、上体を腰掛けていた椅子の背もたれに預け、目を伏せる。
一方、対戦相手のセクスは、宣言されるまで自身の王が追いつめられている事に気が付かなかった様で、慌てて盤上を見据える。
しかし、活路は見いだせない様だ。
「げ…。うそ…。」
それでも諦めずに盤上を眺めるセクスの傍らで、事の顛末を眺めていたオクトは思った。
(…勝負あったな。)
流石に傍らでうんうん唸っている彼の近くで、声に出しては言う事はできなかったが。
これ以上見ていても進展はないと、その場を離れようとしたその時に、




音が 聞こえた。





「…先生。」
彼らは、そう呼ぶ。
名はエンキドゥ。彼らにとっては親の様な存在であり、また導く者でもある。
どちらかといえば、後者の意識が強いらしく、その意を称して彼らは「先生」と呼ぶのだ。
そして先生からの「音」は、それ自体が彼の「声」であり「言葉」を意味している。



「声」を聞き、天を仰ぐ。



目を伏せていたノウェムも同じであった。
セクスだけは、未だ視線を盤上に向けている。
何故ならその「声」に、自分は関係が無かったからだ。
「なんだろう。」
椅子から立ち上がり呟くノウェム。
「ご指名だね。」
「…行ってくる。」
いってらっしゃい。とオクトが声を掛ける間に、ノウェムは静かにそこから消えてしまった。
残されたオクトは、セクスの方に視線を落とす。
相変わらず盤面と格闘中。
「…諦めたら…?」
無駄とは分かっていても、言わずにいられなかった。





* * *




デルフュスの中枢。
この空間には何もない。見渡す限りの白。
唯一天と地を分ける境界があり、その地に立てばうっすらと影が生まれる。
今見える影は二つ。
一つはノウェムのもので、もう一つはエンキドゥのものだ。
エンキドゥはこの白の空間を好み、いつもこの場所にいる。


「…先生。」


白の眩しさに少し目を細めながら、エンキドゥの方に視線を向ける。


「君にね。」


言いながらうっすらと、笑みを浮かべるエンキドゥ。
こういう表情をする時は、大抵が「仕事」の話と決まっていた。
嫌な事ではない。
この人の導く先に、真の正しい世界があるのだと、信じて疑わなかった。
その為ならなんでも出来る、自分だけではない仲間達も皆同じ想いを抱いていた。


「お願いが、あるんだ。」


この、強要しない言い方も、ノウェムは好きだった。



「とても難しい事だ。もしかしたら、出来ないかもしれない。」


もしかしたら。この言い方に微かに疑問を抱いた。


いつもはそんな風に言ったり、しない。


確かに今までには失敗した事も何度かあるが、それを出来ないかもしれないとは一度も言われた事がない。
言わないのは信頼の証だし、その信頼がまた自分自身にも任務遂行の糧となっていた。
それなのに今回に限って何故、と不思議に思いながらも、静かに続く言葉を待った。


「でも、君になら出来るかもしれない。我が魂を分けた十の子の中で、最も私に近しい物を持つ君なら。」


だがこの後の言葉に、ノウェムは思わず絶句してしまう。












「娘を、愛して欲しいんだ。」







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>>今回の捏造小話
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