>>デラシネ.03





「最近あいつ付き合い悪くない?」




卓上にカードを投げ捨てながら不服そうに呟いたのはセクス。

(…負けそうだからって。)

途中で勝負を投げられて、ムッとしながらも散らばったカードを集めるオクト。


「だから俺が付き合ってるだろう。」


カードを整える規則的な音が、しんとした室内に響く。


「だって、お前全然容赦ないし。」

「勝負に手加減なんて必要ないだろう。」


冷たくあしらうと、セクスは不服そうに呟いた。

「これだもんな。」

あーあ、と大きなため息を付いて伸びをする。そのまま脱力して、天井を眺めながら呟いた。


「…今回の『仕事』って、そんなに大変そう?」

「俺だったら…やりたくない、かな。」




この間、ノウェムから聞いた新しい『仕事』。




あの時は、感情が先走ってしまったが、後で冷静になって考え直し、自分が彼に言った言葉をひどく反省した。
想いは同じハズなのに、否定する様な事を言ってしまった自分を。


「なんか、俺らでも手伝えないのかな…。」


力になりたい、と思う気持ちはセクスも同様であった。







* * *







闇からそびえるいくつもの石柱。
デルフュスの最深部。


ノウェムは時間の許す限り、ここにいる。


静かな空間に、居たかった。
愛せと言われても、相手の事をろく知りもせずに好きになることは出来ないと、ここに来ては『先生の子供』を見ている。
最初は、ただ眺めているだけだったのだが、見ている内にますます人間というものに嫌悪感を抱く様になってしまった。


逃げる『先生の子供』達と、追っている者達。
その光景は非道く醜い。


内面的に、である。

今すぐにでもその場に行って、消してしまいたいという衝動。
それを抑えるには、静かな空間が良かった。



(それにしても。)



とノウェムは思う。






(哀れだ。)






もう少し違う世界・違う空間に居たなら、『先生の子供』達はもう少し幸せであれたのではと。

世界を狂わせている『もの』に、力を持たぬが故に振り回されているもの達を、今まさに目の当たりにしていた。









* * *









別の仕事の件で、先生に報告をし終わった帰りに、ばったりセクスとオクトに会う。
今までは、時間の空いた時にはこの2人と一緒に居る事が多かったせいか、なんだか久しぶりに顔を見た気がした。


「『仕事』大変みたいだねぇ。」


セクスが間延びした声で言う。
ノウェムは一瞬考えて、それからセクスの隣に居るオクトを見る。
見られたオクトは、ごめん。と黙ったまま目を伏せた。


「『仕事』の事、聞いたのか。」


咎める様な口調では無かったが、それでも動揺は隠せなかった。
正直今回の『仕事』の事は、あまり他の者に知られたく無かった。

何を言われるか、分かったものではないからだ。
自分自身も矛盾を感じているというのに、以前のオクトの時の様に否定されてしまっては、決意が鈍ってしまう。


「別に隠す様な事じゃ、ないでしょ?何か手伝えないかなーと思って。」


そんな反応のノウェムに、不思議そうな顔をしながら答えるセクス。


セクスにとって、『仕事』の内容は大した問題ではなかった。
それよりも、その『仕事』で大変そうなノウェムを助けたいという思いの方が、ずっと大きかった。

あっさりと言い切られてしまって、思い詰めていた自分に気づく。
仲間に思われているというのが、励みになった。


「…ありがとう。でも、自分でもどうしていいのか分からなくて。」


言いながら、笑みがこぼれるのが自分でも分かった。


「いつも何、してるの?」


腕を組んだオクトが、首を傾げながら聞いてくる。
彼も彼で、心配してくれているのだ。


「…見てる。」

「見てる?」

「見てるって、先生の子供を?」


急に質問責めに合い、言葉を失うノウェム。


「…ごめん。いいよ、言いたい事だけで。」


その雰囲気を察してオクトがつかさず言葉を付け加える。
焦って聞き出そうとすると、ノウェムはかえって口を閉ざしてしまう事を知っていた。


「いや、大丈夫。」


ただ驚いただけ、とノウェムは笑った。


「先生の子供の事、何も知らないから。それで見てるんだけど…。」

「だけど?」

「…だんだん自信無くなってきた。」


ふ、とため息を付く。
眺めていても、人間の事をますます嫌いになるばかりで。
一体どうしたらいいのか。


「会った事は無いの?」

「会うって…。先生の子供に?」


言い出したセクスは、そう。といって頷く。

「無いよ。どうして?」



「だったら、会えばいい。」



突然の提案に、ノウェムどころかオクトまで目を丸める。


「だって、いくら見てたってその人間の事分かるわけないし。会うのが一番てっとり早いと思うんだけど。」

「…だからって…。」

と、反論に出たのはオクト。彼は人間を毛嫌いしている傾向がある。
表情の強張っているオクトとは対照的に、セクスはむしろ目を輝かせながら言った。


「いや、絶対会った方がいい。体質的にやっぱ無理、とか、見てるだけじゃ分かんないし。」


黙っていたノウェムが、それに、と思いついた様に続く。


「逆もあるかもね。」

「逆?」


分からずオクトが、今度はノウェムの方を向いて問う。



「本人を目の前にしたら、好きになっちゃうかもって事。」



それは無いだろう、と眉間にシワを寄せるオクト。
苦笑しているあたり、言ったノウェム自身もそんな一目惚れ的な事が、自分の中で起こるとは思っていない様だ。しかし。


「可能性が全く無い、とは言えないし。」


何かが変わるかもしれないと、思った。

それが、結果としてプラスなのかマイナスなのかは、実際に会って見ないことには分からないけれど。
しかし今のままでは、いつまでたってもこの『仕事』を終える事は出来ないだろうと、自分の中で確信していた。


「じゃあ、決まり?」


これから楽しい事でも始まるような物言いのセクスに、二人は互いに視線を合わせ、それから同時に彼に言った。












「今回の『仕事』、お前の方が向いてる気がする。」













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>>今回の捏造小話
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