| >>デラシネ.05 |
例えばそれは第一印象。 外見で言えばそう、キレイな顔をしている、とか、小柄で可愛い、とか。 でも実際に、それらは大した問題では無かった。 当人を目の前にして思った事。 それは恐ろしい程に。 固く閉ざしている…ココロ。 エンキドゥの示した場所に行き、子供たちと会う三人。 たった二人の姉弟は、その急な出来事に困惑しているのが見て取れた。 会話を交わしても、言葉の端々には拒絶の色を感じる。優しくなんかしないで欲しい、と。 彼らは与えられる事に慣れていなかった。それはきっと、今までに奪われたものが多すぎたせい。 「僕たちの所へ来ない?」 精一杯の誠意を見せても、受け入れようとはしない。 いつかまた、奪われるものならいらないと。 ノウェムには、音が聞こえる。 と言っても、通常の空気の振動によって聞こえるものではない。ココロが奏でる音。 もちろん、普通には聞こえない。彼が持つ特殊な能力のようなものだった。 いつもはこの能力を、戦闘の時に使う。 ココロの奏でる音は、ひどく正直だ。何を考えているのか手に取るように分かる。 故に戦いの場では非常に有効なのだが、それ以外でも、相手の考えている事、思っている事を知りたい時に使用する。 当然、子供たちに対しても使っていた。 その音こそ、彼らの第一印象。 特に彼女の方はひどかった。 殆ど音が聞こえないのだ。 こんな事は、ココロを強く閉ざしていないとあり得ない。 理由など考えなくても、容易に推測できる。今まで見ていた彼らの生活そのままがその原因。 「僕たちの所へ来ない?」 この言葉に、ココロが揺らいだのは確かだった。 でも、固い壁は崩れない。 彼女の場合、守らなければならないものがあったからだろう。 隣にいる『弟』の竜也。 これこそ、彼女を支えているモノであり、強さだった。 大丈夫、追ったりしない、奪ったりしない。 敵じゃ、ない。 …分かって。 「来た。」 オクトが呟く。 「悪魔の子たちが。」 ざわっと、二人の空気が変わる。 ノウェム自身も、己の中で緊張の糸がピンと張るのを感じる。 ギルガメッシュは、敵に対して容赦がない。 敵ならば滅ぼす、というのが彼らの基本的な考えだった。 「ここでじっとしてて。」 姉弟にそう言いつけ、悪魔の子の元へ。 先生が言っていた。 『悪魔は子供たちに知恵を与えようとしている。その知恵を得れば、やがて子供たちと我々は敵対することになるだろう。』と。 敵になれば、あの姉弟とて当然殺す事になる。それは絶対的な事。 先生が会わせたくないと言った理由が、今ならなんとなく、分かる様な気がした。 (彼らを殺したくは…ない。) 祈りにも似た思いが、ノウェムの中に芽生えていた。 その直後、姉弟は非現実的な戦いを、目の当たりにする事になる。 * * * 姉弟は、逃げる事を選んだ。 部屋から出て、屋敷から出て、そうしてまた追われる日々を。 だが突如目の前に現れた獣に、恐怖し気絶してしまう。 驚かせてしまった事を、悪く思ったのか、オクトは青年の姿へと戻った。 後から来たノウェムは、倒れている二人を見て、一瞬死んでいるのではと思い、近づいて、呼吸を確認する。 息は、している。 神経を澄ますと、音が聞こえてくる。 眠っている時は、彼女のココロもこんなに穏やかな音を奏でているというのに。 失う事への恐怖心が、彼女のココロを固く閉ざす。 彼女自身、それが本当の強さではない事くらい、分かっているだろうに。 執拗なまでの悪魔の子らの攻撃は続く。 油断したのか、セクスに至っては負傷をしている様だ。 仕方なしに姉弟を置いたまま一度引く事にする。 何より、戦う気が、失せていた。 彼女の奏でる音が、響いて、…悲しかった。 「ざまあないわね。」 あの後も心配してくれていたのか、ひとまず退散した所にウーノが様子を見にやってきた。 開口一番にこの一言。全然『大丈夫』じゃないじゃない、と言わんばかりの口調には棘がある。 負傷してしまっていたセクスは特にムッとしている。今頃来て、なんだ。と。 「次はどうするの。」 先生の子供たちは、悪魔の元に連れて行かれてしまった。 「奪い返す。悪魔に知恵を吹き込まれる前に。」 ノウェムのその一言にウーノは満足そうに笑うと、そのまま行動を共にする事に決めた様だ。 行く前に、とノウェムはウーノと額を合わせる。情報の共有。 額を離すと今にも笑い出しそうなウーノ。 「気絶してる。」 「あいつが悪いんだ。」 言って、オクトの方を見るノウェム。 「怖がらせてしまった。」 「勝手に部屋を出たヤツが悪い。」 と、主張するオクト。確かに、忠告を守らなかったのは姉弟の方。 「今度は、守るんじゃなくて連れ戻す事になるから、二人を説得しないと。」 「じゃあ、その役目はお前(あなた)ね。」 ノウェムが言いきる前に、見事に同じ言葉が三人の口から返ってくる。 言われずとも自分でするつもりだったが、一斉に言われてしまうと何だかイヤな事を押しつけられた様な気分になった。 「強引に、連れてくるのじゃダメなの?」 とセクス。 「行きたくないのに、無理に連れて行くんじゃ、あいつら(人間)と変わらないだろ。」 「あ、そっか。でも、面倒だね。」 面倒なのは充分承知だが、あんな風に頑なに断られてしまっては、強引に連れていっても何も変わらない。 何よりあの、ココロの壁を壊さない限り、彼女にとって本当に安らげる場所など、何処にも無いのだ。 ちゃんと話がしたかった。あの姉弟と。 警戒すると思って、最初は何も知らないフリをしたけれど。 先生の事を話したら、少しは分かってくれるかもしれない。自分たちは味方なのだと。 「行こうか。」 鈍く光る瞳を、ゆっくりと皆に向ける。 静かに頷く三人。 直後、その空間には誰も居なくなる。 今度は子供たちを連れ戻す為に。 |
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