| >>デラシネ.09 |
私はあの人達に噛み付く様に、辛辣な言葉を思いつくだけ全部、吐いた。 父さんの事を崇拝して、まるで何かの宗教みたい。 馬鹿馬鹿しい。 あんな父さん信じていたって、どうしようもないのに。 私を…私達を、こんな目にあわせておいて。 何を今更。 何も望んでなんか、ないんだから。 そうよ。私には竜也がいるもの。竜也がいるから他は何もいらない。 竜也がいるから…。 * * * 「よかったのか。」 紀世子を解放したノウェムに問う。 「うん。」 ただ、話をしてみたかっただけなのだ。 本当の気持ちを聞いてみたかった。 それが分かった今、彼女を拘束する理由は無い。 「先生の事、否定するなんて。本当に血の繋がった娘なの?」 言うことなすことを徹底的に否定され、ウーノは腹を立てていた。 「ちょっと、許せないかも。」 実力行使に出ようとしたセクスも同意する。 「人間なんだから。しょうがないんじゃない?」 最初からいい印象を持っていなかったオクトは今更、といった様子。 「…守りたかったんじゃ、ないかな。」 ノウェムだけは、何か別の事を感じていた様だ。 「…何を?」 そのオクトの問いには、答えなかった。 これはノウェムだけが知っていた事。 先生から貰った、記憶。 この記憶は誰にも、共有していなかったから。 ノウェムしか、知らない。 幼い頃の彼女。 愛されて、幸せそうだった。 (彼女は、先生の事を今も愛しているんだ。) でなければ、先生を否定する必要なんて無い。 否定するのは、思い出の中の先生を忘れていないから。 そして、先生に会うことを頑なに拒むのは。 その思い出が壊れる事を、彼女が恐れているから。 現実があまりにも残酷で。 彼女は、思い出を守る方を選んだのだ。 ならば、彼女は連れていくべきではない。 弟の竜也も、彼女が行かないと言えば従うだろう。 悲しいのは、やがて敵として対峙しなければならなくなる事。 そうならない様に導くのが、僕たちの『仕事』だったのに。 先生の望みだったのに。 …僕の望みでもあったのに。 「どうするの?」 ウーノに声を掛けられ、我に返るノウェム。 「そうだね。」 どうする、とは、外に来ているオルガ達の事である。 「別に、戦う必要もないけど。」 奪い合っていた姉弟は、彼らに渡した。 とりあえず、今戦う理由は無い。 「でも、引いたら逃げたみたいに思われるのはイヤだよね。」 セクスは既に臨戦態勢に入っている様だ。 「敵は、排除する。先生のご意志だ。」 オクトもそれに同意した。 「…分かった。油断するなよ。」 二人に触発され、ノウェムの瞳の輝きも、鈍いものに変わる。 こくり、と頷くと全員は一斉に飛行機の中から消えた。 * * * 手を引く竜也の背中を見ながら、ふと思った。 この子も、いつかは私の傍から居なくなるのね、と。 手を離すなら、私からがいい。 誰かに裏切られるのは、捨てられるのはもう、イヤ。 傷つけられるより、自分から傷つく方がまだマシだもの。 痛いのは、イヤ。 逃げるのも、もう疲れた。 今までの事全部が、夢だったらいいのに。 夢だったら。 * * * (油断していた訳ではないんだが。) 瓦礫の下に埋もれたまま、オクトはそんな事をぼんやり考えていた。 胸の辺りに違和感を感じ、それを口から吐き出す。 ばたばた、と紅いものが眼前に広がった。 (いずれこうなるのも、ずっと前から覚悟していた事。) 己の命が燃え尽きようとしているのが、まるで他人事の様に思えた。 後悔するとすれば、相手の一人でも道連れに出来なかった事くらいか。 ふ…と、目の前に人の気配。 (…いや、もう一つあった。) ゆっくりと、顔を上げる。 正面には、悲しそうな顔をして立っているノウェム。 (お前の事だから、きっと後悔するんだろうな…。) 『仕事』でも無いことに付き合わせて、巻き込んでしまったと。 最後の力を振り絞って、彼に伝える。 『ここ か ら、…離れ て…。』 脳に直接伝わってきた言葉に、ゆっくりと目を閉じるノウェム。 オクトが何をするつもりなのか、分かって、辛かった。 『あん ま り…、無茶 するなよ … 。』 その言葉に、ノウェムは堪らず言葉を交わそうとするが。 次の瞬間には大規模な爆発が起こっていた。 爆発音と共に、紀世子の耳に響いた耳鳴りの様な音。 思わず耳をふさぐ程の音だったが、隣にいる竜也は平気そうな顔をしている。 少し不思議に思いながらも、紀世子はその音が何の音か理解していた。 (誰かが、泣いてるんだわ。) 耳を塞いでも響いてくる音。 この音は、耳から聞いているのではない。 (心で。) 初めて聞く音だったが、確かにそうだという自信があった。 (だってこんなに悲しそうな音。) 胸が、苦しくて押しつぶされそうな程の。 (…慟哭。) |
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