| >>デラシネ.10 |
大きく抉れた大地を呆然と眺めるノウェム。 その背後に、セクスとウーノが現れる。 「…帰りましょう。」 そっと促すが、ノウェムは動こうとしない。 「お前のせいじゃないよ…。」 励まそうとしたセクスの言葉に、バカ。とウーノが叱咤する。 そんな風に言っては逆に責めている様なものだ。 例え、セクスにはそんな気がなかったとしても。 暫く沈黙が続いて、ぽつりとノウェムが呟く。 「僕のせいだ…。」 (巻き込んだのは、僕だ。) 後悔しか浮かばなくて、拳を強く握った。 (僕が、殺した。) * * * 戻ってきたノウェムは真っ先にエンキドゥの元へ向かった。 先生がいつも居る、真っ白な空間。 「おかえり。」 いつもの、優しい声で迎えてくれる先生。 「すみませんでした。」 責められないのが、逆に辛かった。 「…オクトの件は残念だったね。」 「僕のせいです。」 いくら自分を責めても気が収まらない。 周りも優しい言葉を掛けてくれるばかりで、いっそ誰かに激しく罵倒して欲しかった。 「君のせいじゃない。」 それでもエンキドゥは責めない。 「君は、一人で背負いすぎる。」 そういって、高ぶっているノウェムの感情をなだめた。 ひたり、と歩み寄るエンキドゥ。 ゆっくりと手を上げ、彼に触れようとした時に、視線を伏していたノウェムと目が合った。 「…無かった事に、して貰えませんか…。」 真剣な眼光が、エンキドゥを見据える。 「…何を?」 そう問う割には、これから彼が何を言うかを分かっているかの様な表情。 「…先生の娘を愛すという『仕事』です。」 言われても顔色一つ変えずにいるエンキドゥ。 「…なぜ?」 上げかけた腕をゆっくりと下ろしながら更に問う。 「巻き込んで、失って。僕には、無理だったんです、初めから。分かっていたのに。」 言葉が続かなかった。 視線を落としたノウェムの両頬をゆっくりと手で包み込む。 「無理を言って、悪かったね。自分を責めるのはもう、やめなさい。」 頬を包み込んでいる先生の手が温かくて、張りつめていた感情が瞳から溢れてしまいそうだった。 「すみません…。」 先生だけじゃない、オクトにも詫びたかった。 きっと中途半端なまま『仕事』を放棄しようとしている自分を見たら、彼は叱るだろう。 でも、もう心が折れていた。 彼を失ったという現実が、今はただ辛かった。 「…いいよ。これは僕のワガママな『お願い』だったんだ。イヤなら、しなくてもいい。」 いつまでも優しい先生の声も、今の心には、寂しさを響かせるだけだった。 ノウェムが去った後、白い空間の中に、新たに一つの影が生まれる。 「よかったの、あれで。」 エンキドゥに話しかける、もう一つの影。 「何が。」 ゆっくりと声のした方向に体を向けるエンキドゥ。 視線の先には、エンキドゥと同じ装束を着た女の姿。 「娘を。と望んでいたのは、貴方じゃない。それとも、違う『器』を見つけたの?」 女の言葉に、エンキドゥは薄く笑みを浮かべる。 「全ては必然の中での出来事なんだよ。」 「それはティアの意思?」 「どうかな。」 そう言うと、エンキドゥはつい、と視線を外し女の居る方とは逆の方向へと歩き出した。 「私はただ、最良の形で世界の終末が訪れる様に、駒を動かしているに過ぎない。」 歩みを止め、天を仰ぎながら続ける。 「きっかけがあれば、よかった。後の流れはもう、既に決まっている。」 何もない空を、ずっと見上げたまま。 * * * 舞台は、トゥランガリラへと移る。 ノウェムがエンキドゥから受けていた『仕事』は、トゥランガリラ建設の妨害及び破壊。 (こういう『仕事』がいい。) 実にシンプルで、やりやすい。 感情をどうしろ、というのはやはり『仕事』としては割り切れない。 新たにドゥオと同行する事になったノウェム。 オクトと似て、非常に好戦的なのだが、どこか情緒的な所もあり、正直何を考えているのか分からない部分も多かった。 「考え事?」 建設中のトゥランガリラばかり眺めていて、ドゥオがこちらの方を伺っているのに気づかなかった。 「ああ。」 「あまり、深く考えない事だ。本当に正しい者は、心が揺らいだりなど、しない。」 こちらは何も言っていないのに、不思議と彼は確信をついてくる。 「…信じているさ。先生も、自分も。」 「ならば、悩むな。」 そして、明瞭な答えをくれる。 全くもってその通りだと思う。悩んでいると言うことは、信じている事にはならない。 そう。信じているなら、悩む必要などないのだ。 「行こう。」 トゥランガリラに視線を移し、告げる。 「…。」 黙ったままのドゥオを不審に思い、再度視線を落とす。 「その方が、お前らしくていい。」 そう告げて、ふ、と笑うとノウェムを置いて先にトゥランガリラへと向かう。 励まされたのが分かって、何だか妙な気分になった。 そしてトゥランガリラで、懐かしい顔との再会。 今度は完全に敵として。 僅かに空しさを感じたが、そうなってしまったものはしょうがない。 残酷な決断も、神の遺伝子故の事か、彼らギルガメッシュは人よりも切り捨てが早かった。 忠告はしていた事だ。 「死にたい?」 冷徹な言葉を吐くのも、別に恐怖する彼を見たいからではない。 そうすることによって、自分の前に立ちふさがらない様にするため。 「死にたくないなら、こんなところに来ちゃ駄目だ。」 邪魔をしなければ、こちらから何かをする事はないのだから。 しかしあくまで敵として対峙しようとする竜也。 「ここに来た理由はある。」 相容れない感情。 その根底には、エンキドゥが成そうとしている事への反発があった。 しかし、この世界は既に、大きな流れに沿って動き始めているのだ。 いくら彼が戦っても、犠牲となっても、この流れは何も変わらない。 「時計の針を逆に回しても、無駄なんだよ。」 宇宙の流れは、戻ったりなどしないのだから。 ならば、その大いなる流れに逆らおうとしている連中は悪でしかない。 それすら分からない人間が愚かしいと言っているのだ。 全員が集合した所で、イヤな気配を感じる。 「連中か。」 「まずいな。」 以前、同じ気配を持つ者と戦い、手痛い目にあっていた。 恐怖などは無いが、力の通じない者と戦うにはあまりにも無防備だった為、ひとまず引く事を優先とした。 * * * 「連中もトゥランガリラと絡んでくるのか。やりにくいな。」 そう言い捨てたのはウーノ。 彼女は一度、彼らと戦った事がある。 「今までみたいに、妨害しにのこのこ現れていたら、いつかやられるな。」 ノウェムも、経験者としての意見を述べる。 「…じゃあ。」 どうするの?とノウェムの反応を伺うセクス。 「一気に、叩きつぶす。」 ノウェムのかわりにドゥオが答える。 それに頷くノウェム。 「犠牲を払う事になるかもしれないが、それが一番確実だ。」 「私は平気よ。先生の為に死ぬなら。」 ノウェムが懸念している事を察し、つかさず答えるウーノ。 その言葉に、少し間が空く。 「…簡単に、死ぬとかは言うな。」 静かに咎められてしまい、嫌な事を思い出させたとウーノは背を丸め黙り込む。 確かにオクトの事もよぎったが、ノウェムが咎めたのはそれだけが理由ではなかった。 死んでもいいという覚悟は、覚悟としてはまだ甘いのだ。 そんな甘さを持ったままで、戦いに望んでは本当に死にに行くようなものである。 だから咎めた。 生きて、先生の為に成さねばならない事が、まだ残っているのだから。 「お前も、ためらうな。」 ドゥオのその一言に、全員の視線が集中する。 「先生の子供だからといえ、敵は敵。何があったのかは知らないが。」 一度言葉を区切って、ノウェムの方を見据える。 「排除するのが、先生のご意志だ。」 「ためらっては、いない。」 表情を変えないまま答えるノウェム。 「邪魔をすれば、殺すさ。」 「ならいいが。」 納得したのかしないのか、その答えを聞くとドゥオは話を終わらせた。 (そういえば。) と改めて思う。 (お姉さんは、居なかったな。) 今となっては、何の関係もない人間だが。 それでも、一時期は毎日の様に二人の事を見ていたので、ふと、気になった。 (少しは、幸せになっているだろうか。) 固く心を閉ざした彼女。 自分たちと共に父親の元へ行く事よりも、自分の力で生きていく事を選んだ。 (会わなくて、よかった。) 会うという事は、敵として向かい合う以外にはあり得ない。 (せめて穏やかな終末が、彼女に訪れますように。) 誰に祈るでもない、なんとなく、そんな言葉が脳裏をよぎった。 |
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>>今回の捏造小話 |
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