>>デラシネ.11




再び彼と会ったのは、またもトゥランガリラ内部でだった。




一度、トゥランガリラ建設中止を狙ってある屋敷へと侵入し、首謀者を殺害したが、それでも建設は続行され、ついに今日、完成してしまった。


トゥランガリラ上空に、僅かに広がる青い空。
想像していたより優しい色に、暫く目を奪われる。


初めて見る空の色。


いや、自分たちにとっては、シェルタリング・スカイこそが空の色になる訳で、あの青は『外の世界の色』というべきか。
だが、この『色』を見るには早い。『繭』の中は、まだ未熟な状態なのだ。




だから、破壊しなければ。

何を犠牲にしてでも。




















視線を、隣に居るドゥオに移す。
彼もまた、思うところがあるようで、暫く上空を眺めていたが、ノウェムの視線に気づき、ようやく空を見るのを止めた。


「もう、いいのか。」


食い入るように見ていたので、一応確認する。


「ああ。」


名残惜しそうにもう一度だけ空を見上げて、頷いた。



「もう、見ることも無いのかと思うと。」



ぽつり、とドゥオが呟く。






「あの青が、ひどく遠くに見えた。」


「…。」






言われてノウェムも、再度空を見上げた。

トゥランガリラを破壊すれば、空は再び『繭』に覆われる事になる。
そうなれば、世界が生まれ変わるその日までもう、この青に逢える事は、ないのだ。
そう思うと、優しかったはずの色が、どこか冷たさを帯びているように見えて、虚しかった。


セクス・ウーノと合流し、そびえ立つ塔へと向かう。








『繭』を壊そうとしている、『牙』を折る為に。














潜入したトゥランガリラ内部で、再び敵として現れた彼。
気配を伺うが、ここに来ているのは彼だけのようだ。


(今日も、お姉さんは居ないんだね。)


脳裏をよぎった一瞬の雑念をすぐにかき消す。


(そんな事を、いちいち安堵してどうする。)


落ちていた銃を拾い、乱射する。塔の中では、力がうまく使えないのだ。
仲間を先に行かせて、自分は留まり足止めとなるノウェム。

今回だけは、邪魔をされては困る。


「殺すよ。」


と言ったのは、脅しなどではなく本気だった。
これ以上、『繭』の中を剥き出しのままにはしておけない。
だが、互いにデュナミスが使えず苦戦を強いられる。


(やりづらい。)


そう思ったのは単に力が使えないだけではなかった。
自分一人に対して相手は複数なのもやりづらいし、扱いに慣れていない銃を使っての戦闘もやりづらかった。


(いつまで、食い止められるか…。)


いくら戦闘慣れしているとはいえ、状況は芳しくない。






最悪、自爆でもなんでもすればいい。






そう思って苦笑した。
ウーノあたりがそれを聞いたら怒るだろう。言っている事とやろうとしている事が違うと。
しかし、手段がそれしかなくなれば、そうするしかない。


かつてオクトがそうした様に。










その時。










…『音』が聞こえた。






















エンキドゥの、声ならざる『声』。





ふわりと、温かい『力』が内から溢れてくる。

先生の『それ』は、柔らかくて温かい。















…あの日。








試験管の中から出してくれた。



僕たちを優しく包んでくれた。



先生の手の平の温度と、同じ。











僕たちに、生きる力と理由をくれた、先生。




















あの人の為なら、なんでもできる。




















エンキドゥからのデュナミスにより、力が使える様になるギルガメッシュ達。

一気に形勢が有利となった。








* * *








一方、ウーノと別れたセクスは、動力部へとたどり着いていた。


(さて、どうするかね。)


渇いた唇を軽く舐めると背後を伺う。
人とも機械ともつかない不気味な番犬が、少なくとも十は居るだろうか。


(コイツら、キライだなぁ。)


デュナミスを使えなかったせいもあって、数カ所に渡って負傷しているセクス。
動力部の中心に来て、ふと思いつく。


(このまま、逃げるのもいいけど。)


ぐるりと、周りをアンブリオンに囲まれながらもにやりと笑うセクス。





(どうせなら、全員巻き込んでやる。)





中途半端に引きつけて逃げては、もしかしたら生き残るヤツもいるかもしれない。
それが単純にイヤだった。
なら、ヤツらが生き残れない程の、瞬間的爆発を生み出せばいい。
しかし動力部を破壊するだけでは、その爆発がどれだけの威力かは予測できなかった。


だからセクスは選んだ。





『壊すよ。逃げて。』





仲間にそう、伝える。


『分かった。』

『了解。』

『引き上げる。』


即座に3人から返事が返ってくる。
それを聞いて安心すると、一斉に放たれたアンブリオンの光線を避けるかのように、動力部内部へとテレポートした。





直後、爆発。





(あ、いけね。)


よぎる走馬燈の中で、ふと思った。




(簡単に死ぬとか言うなって。言われてたんだった。)




しかし既にやってしまった後なので、まぁいいか、と目を伏せた。


















周りを炎に包みながら、崩れていくトゥランガリラ。


(…あいつ…。)


セクスの気配を感じられず、事態に気づくノウェム。


(あれだけ言っておいたのに。)


彼の性格を思い、どうせ深く考えないまま行動したのだろうという結論に辿り着いた。


(あいつらしいと言えば、あいつらしいが…。)


こうして、残された者の気持ちも少しは考えてから、行動して欲しい。









しかし、その余韻に浸る暇もなく、再び戦いとなる。
逃げのびた先にオルガも来ており、今から戦っても無駄だと諭すが、その間に接触を恐れていたブラッタリアに包囲されてしまったのである。


(まずいな。)


トゥランガリラ破壊に際し、体力をかなり消耗していた為、いつもより状況が悪かった。
散り散りとなって逃げるギルガメッシュ。

しかし、攪乱しようにも相手の人数が多すぎる。

ノウェムはブラッタリアの一人に左下腹部を刺され、膝を付く。
じわり、と血が滲むように、刺された部分がラピスワルカに浸食される。
ただの物質となってしまったその箇所は、不気味な緑に変色していた。

たまらずそこから逃げようとするが、仲間がまだ残っていた。
ドゥオは既に事切れている様だが、ウーノの気配はまだ感じる。


彼女だけでも、生きて帰したい。


そう思い懸命に留まるが、攻撃を受けるばかりで、散り散りになって逃げた事を今頃後悔した。
ついには気力も尽き果て、ノウェムは意識を失う。







…消える意識の彼方で、かすかに先生の『音』が、聞こえた気がした。








* * *



さっきまで青かった空が一転して真っ赤に染まっている。
あまりにも遠い所での出来事に、ただ呆然と紀世子は立ちつくしていた。


(これもきっと、父さんの仕業。)


空が真っ赤に染まる少し前。
懐かしいあの『音』が、紀世子の耳にも届いていた。



(…竜也も、あそこにいるのかしら。)



今は離れて暮らしている弟の事だけが、気がかりだった。














ふいに、紀世子の耳に再びあの旋律が聞こえる。
あ。と思った直後、何かの物音。
驚いて、振り返るが、そこには何もない。

不審に思い、音がした方へと足を運ぶ紀世子。
近付いた所で、びくりとして足を止める。
物陰に隠れていた物に気づき、それが何か分かって、恐くなったからだ。



(…あの時の…。)



動悸が、早くなるのが分かる。
最後に会ったのは、確か飛行場だったか。

綺麗だった顔の一部が、緑に変色していて不気味だった。

どうやら気絶しているらしい。

勇気を出して、もう数歩前に出てみる。
今度は横たわっている体全部が見えて、思わず足を止め、息を呑んだ。


(怪我…してるの…?)


腹部に広がっている、とても傷口とは思えないような、緑色。
でも、人ではないのだから、こんな色でも怪我なのかもしれない。
鼓動が早くなりながらも、更にゆっくりと近付く。


呼吸が聞こえない。


どきり、として、小さく体を震わせながら、そっと胸元に耳をあてる。
耳を澄ますと、とくん。と小さい音を奏でる心臓。




(生きてる。)




息を止めて、ノウェムの顔を見た。




































(…生きてる。)






















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>>今回の捏造小話
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