>>デラシネ.15









深い夢の中にいた。








確かにそこが、夢の中だと分かっているのに。







目を開ける事が出来なかった。
















否。





本当は開けているかもしれない瞳も、真っ暗で何も見えていないだけ。




風景だけではなく、自分の手も、足も。

何も見えない。










(ココは 何処?)











声も、聞こえない。











(…何処…?)












記憶を辿る。


細い糸のような記憶。



この、深い闇に入る前の。












* * *











終わりの日は突然だった。

いつか来る事は分かっていたが、その日は自分で決めるつもりだった。


(この傷が癒えたら。)


そう、決めていた。

なのにある日突然、なにもかもが終わってしまった。







(だからかもしれない。)







セプテムが癒してくれたのは、身体に負っていた傷だけで。



でも本当は、そんなものはどうでもよくて。



この時間の終わりを告げる、残酷な彼女の言葉が、僕に深い絶望を与え。



眠りに誘われる様に、この暗闇に自ら身を委ねたのだ。



(僕は、望んでココに来た。)



ならば、目覚める必要など、どこにも無いのかもしれない。
ここに居る間は、彼女の事だけを考えていられるから。


もう、それで、いい。


それだけで。























(ノウェム)























懐かしい声に呼ばれて、本当に久しぶりに光を見た。
しかし、視界に拡がった景色は、居心地の良かったあの部屋ではなかった。


「気が付いたのね。」


そう言って頬に触れて来たのは、あの日僕を迎えに来たセプテム。
触れる手が、思い出させる。

戻って来たのだという、現実を。


「ずっと眠っていたのよ。覚えてる?」


眠っていたのではない。目覚める事を拒んでいたのだ。
何故、目覚めてしまったのだろう。

彼女の声が、今更になって何故、聞こえたのだろう。

妙な不安が脳裏を、よぎる。


「迎えに行っても、ちっともアナタらしくなくて。驚いたんだから。」


ニコリと笑って話を続けるセプテム。




「だから強引に連れ帰ったのか。」




目覚めて最初に吐き出した言葉。







(さよならも言えなかった。)







自分でも恐ろしい程の憎悪。彼女が悪い訳では、ないのに。

分かっているのに、誰かに吐き出さないと気が収まらなかった。


「強引だなんてそんな。」


いつもと違う態度のノウェムに、困惑するセプテム。
少なくとも、仲間に対してそんな事を言うひとでは無かったのに。


「心配していたのよ皆。私だって、…先生だって。」


困惑しながらも、なんとかノウェムの怒りを収めようと必死で弁解する。


「嘘だ。」


冷たくそう吐き捨てると、視線をそらした。
心配していた。のなら何故、もっと早く迎えに来なかったのか。


「本当よ。何故、そんな事を言うの?」


彼女が心配していたのは、本当だろう。
嘘だ、と言ったのは『先生も』というのに、疑問を持ったからだ。


目覚めたばかりだからだろうか。


ささいな事が気に掛かって仕方ない。
以前なら、そんな事言わなかったと自分でも思う。



「…すまない。君に、こんな事を言いたい訳じゃないんだ。」



視線をそらしたまま、ため息混じりに呟く。
感情のコントロールが出来ずにいる自分自身に、思わず頭を抑える。

額に触れた手が、ひんやりして心地よかった。
そういえば以前、彼女に「アナタの手、冷たいのね。」と言われた事があったのを思い出して苦笑する。


そしてすぐに悲しくなった。



(もう戻らない。)



彼女と過ごした日々も、時間も。

残ったのは、優しい思い出。

それすら、何かの弾みで壊れてしまいそうで、怖かった。




すっかり憔悴してしまっているノウェムを見て、思わずため息するセプテム。


(あの、女のせいね。)


思いながら、紅い唇を強く、噛み締めた。



「…人間の女なんか、愛したって。」



吐き捨てる様に。




「どうしようもないでしょう。」




先生の娘にも言った事。

人とギルガメッシュは異なる物体。
互いに愛し合った所で、共に生きていく事など出来はしないのだから。



「誰から聞いた。」



その一言に、セプテムは我に返るが、目の前の彼は起き上がり、真剣な表情で問いつめてくる。


「何故知っている。」


以前先生から、そう言われた事を知っているのはごく一部のハズ。
知られたくなかったから、殆ど誰にも教えていなかった。

協力してくれたウーノにさえ、ハッキリとした事は伝えなかったのに。




「…先生よ。『僕が頼んだんだ』って、仰っていたわ。」

「いつ聞いた。」

「…アナタを迎えに行くときよ。何をそんなに怒っているの…?」




気づけば、立ち上がってセプテムの目の前まで詰め寄っていたノウェム。

小さく息切れしている彼女の音が、聞こえる程近くに。
言われて我に返り、その場に呆然と立ちつくす。


「…まだ疲れているのよ。戻って来てからアナタ、一度も目覚めなかったんだから。」


やっと冷静になってくれたのが分かって安心すると、ノウェムの頬を優しく撫でた。
その手から逃れる様に離れると、身体を横たえていた場所に腰を下ろした。



(…何が起きている…?)



先生との間では、オクトの一件の時に、自分が『仕事』を拒絶した事で終わっていたハズだ。

だから、彼女と居たのは自分の意志。


だったハズなのに。


今のセプテムの言い方では、まるで今までの事全てが、先生に言われた事をしていたに過ぎない様に聞こえる。




(何処から狂っている?)




全て自分で、決めた事のはずだった。

なのに、本当は大きな流れに沿って、動かされていただけにすぎないのだと。

突然目の前に、真実を突き付けられた様な気分だった。



(そんなハズはない。)



そう思いたくても、思い当たる節があって完全には否定出来ない。

最初から、先生は別の思惑があったように思えて。
自ず動悸が早くなる。




(…俺は、何をした…?)





















「そういえば。」



とセプテムが告げた。























「『目が覚めたら、僕の所に来る様に』って先生が。」




























どくん。














大きく鼓動が脈打つ。



そこに行けば、明白な答えが聞けるのかもしれない。









しかし、手も足も身体も、震えているのがはっきりと分かる程、既に用意されている事実に恐怖している。

























(だけど。)








知らなければならない。




そう、思った。





待っている答えが、どれほど残酷であろうと。



























例え、もう二度と戻らないものを、思い知るだけだとしても。



























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